訪問者を誘う境界空間
訪問者を誘う境界空間
執筆者:長坂茉咲(B4)
街に訪れてくる人とその街に暮らす人々の間にある境界線は強く簡単に超えられるものではない。しかしながら、その境界線を空間にすることができれば、その街は訪問者と良好な関係を築くための場所を持つことができるかもしれない。
世界遺産に登録されている熊野古道の途中にある奈良県十津川村果無集落では、類を見ない固有の境界空間をもつ図式が存在する。
果無集落では、熊野古道を挟むようにして一つの民家がある。要するに、自分の所有する敷地を半分に分割し、敷地の真ん中に道を提供している。
この計画には、訪問者を温かく迎え入れる態度があることを想起させる。誰もが自由にこの道を通るため、住人同士の関係だけでなく、住人と訪問者の関係においても、この道はコミュニティの核として機能している。
ここには、今日の都市に暮らす私たちの態度とは異なる、おおらかな境界空間の作り方がある。原宏司は「集落の教え 100 の[25]訪れてくる人」において次のように述べた。
訪れてくる人のために工夫せよ。............ 集落や都市は、防衛の面から解釈することができるが、
一方では、人々を応接するための機構としても解釈ができる。こうした両面から、集落を参照しなければならないのである。
境界線が明確に引かれた都市において、場所と場所を緩やかに温かく結ぶための方法を探しそこに訪れる人のために工夫することは、都市を考える上でなくてはならない要素だと考える。