『時がつくる建築 リノベーションの西洋建築史』
『時がつくる建築 リノベーションの西洋建築史』
執筆者:酒見 助(M2)
本書は、現代の日本人に潜む、新しいものが善で、古いものが悪であるという建築観を「二十世紀的価値観」と名付け、西洋建築における再利用の歴史を通じて、その価値観からの脱却を目指すという主旨である。
その中で、加藤は既存建築に対する態度を時間の観点と共に次の3つに分類している。
・再開発 「破壊して、新築する」(時間をリセットして、ゼロにする)
・修復/保存「理想とする姿で、永遠に持続する」(時間を巻き戻す/時間を止める)
・再利用「既存建築を改変しながら、再利用する」(時間を前に進める)
現代の日本では、二十世紀的価値観の影響から再開発が頻発し続ける中で、かろうじて文化財として認められたもののいくつかが修復/保存される程度であり、この修復/保存が、あたかも歴史的建築への敬意を示す態度の全てであるかのように捉えられてしまっているように感じる。
加藤は、修復/保存の態度とは、長い歴史の中のある時代の建築観が色濃く反映されることから、一時代のハイライトに過ぎなかった瞬間へ強い憧れを抱いた、危うさを孕んだ「点の建築史」の考え方であると述べ、
それに対し、再利用の態度は、長い時間を生き続けた建築の中に刻み込まれた様々な時代や過去の欠片を組み合わせ、歴史の重層性を建築空間に反映する。つまり、時間軸と共に変貌する建築の姿を描く「線の建築史」の考え方であり、過去への敬意を示しながら時間を未来へと進めるものであると述べた。
そこで先程、現代日本では再開発が頻発し、「線の建築史」が消滅していると述べたが、もう少し視野を広くし、街単位ではどうであろうか。
京都の街について見てみる。
平安時代に造り上げられた正方形街区が、商売の発達による両側町の形成、天正の地割による長方形街区へ変遷し、現代では経済性を求め高層化がなされている。
現代の高層化には批判的な意見も多いが、
その再開発もひとつの歴史上の流れとみなし、「線の建築史」の考え方で未来を見据えるのであれば、かつての町家が並ぶ風景に固執していては時が止まったまま現代に適応し得ない。
街全体として、各時代の痕跡が重層している現在の混成を許容しながら、再利用を行い、この街の時間を前に進めることで、二十世紀的価値観から脱却し、より良い未来の風景へと繋がるのではないか。
自らの修士論文の基盤となった本書、また修士制作に向けて本書ともう一度向き合う機会をくれたこのコラム執筆に感謝したい。