『界隈が活きるニュ- ヨ- クのまちづくり: 歴史・生活環境の動態的保全』
『界隈が活きるニュ- ヨ- クのまちづくり: 歴史・生活環境の動態的保全』
執筆者:長坂 茉咲(B4)
この本を読む前に、近年において重要な論考の一つである槇文彦の「アナザーユートピア」を読んでいた。文化や経済あらゆる面において重要な大都市であるニューヨークは超高層ビルが立ち並ぶが、それと同時にあらゆる人々の自由なふるまいを許容するオープンスペースがあり、都市おけるオープンスペースの重要性を再確認した。
そして、この本に出会い、ニューヨークのかいわい性のあるオープンスペースは、一つの法律によって守られているのだと知った。
「ヒストリック・ディストリクト」という匿名的都市の住宅環境保全を目的とした制度が存在している。これは、歴史的文化財の保全とは大きく異なる。これが指定される地域にはかいわい性の歴史の重層があり、住商混在地区、1 日の生活の全てがそこで営まれ成熟した都市居住の魅力に満ちている。「ヒストリック・ディストリクト」は建築物保存のための規制というより、地区の性格を維持しつつ環境を随時更新するための手段としてある。
都市が多元的であるためには、街区・地域が様々なキャラクターを持ち、それぞれの場所が等価に豊かな重要な場所として認知される必要性がある。
歴史的建造物、地域だけが守られるべき対象になってはならない。匿名組織がひそかに構築してきた住環境もまた等しく評価されるべきだと感じた。都市で暮らす人々のかいわい性を守りながら、正しく新たな変化を受けていく器を持てるように、日本においても住民ひとりひとりが能動的にそのような場所を守っていく意識とそれを支える行政の仕組みを検討していくことが重要なのではないかと考えさせられた。