『チ。ー地球の運動についてー』

『チ。ー地球の運動についてー』

執筆者:河邊 拓実(B3)

この前偶然出会った漫画を紹介します。
皆さん地動説はご存知でしょうか。地球を含む太陽系の天体は太陽を中心としてまわっています。今となっては当たり前とされていますが、それ以前は地球が中心でその周りを他の天体がまわっている天動説が絶対とされていました。

これはそんな天動説が絶対とされた15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説に命をかける者たちの物語です。天界の美しさに感動する心と宗教や権力、社会の理屈の狭間で真理を追い求める者たちに、何か感じるものがありました。
「者たち」と書いたのには理由があり、この物語にはこれといった主人公がいません。正確には何を主人公とするかは読者次第です。

物語では地動説に翻弄される12歳の少年が登場します。彼は初め、社会の中で合理的な選択をすることを信条としていました。波風を立てず、うまく立ち回ることで人生なんて余裕だと。しかし、ある人物と出会い地動説の研究に勧誘されます。本来彼は命を危険に晒すようなバカなことはしませんが、
「今の宇宙は本当に美しいか。」
と天動説について問われ、徐々に地動説のほうが合理的なのではと研究に没頭します。が、ついにそれが見つかり、捕まってしまいます。幸い初犯の少年ということで改心し研究資料の隠し場所を吐けば助かると告げられました。今までの彼なら嘘でもつき改心を宣言する場面ですが、場所を吐くぐらいならと処刑を選びます。そこで処刑人から問われます。
「こんな人生間違っていると思わないのか。」
そこで彼は
「不正解でしょう。でも、不正解は無意味を意味しない。」
「感動は、寿命の長さよりも大切だと思う。」
と言い放ち自ら命を絶ってしまいます。

最後の彼の選択は、彼の人生にとっては愚かかもしれません。しかし、地動説にとってみれば正解でした。もちろん研究資料がなくなれば後に続く者がいなくなってしまいます。そう言った意味では彼は最後まで合理的に生きたのかもしれません。
読み終えた私が思うこの物語の1番の主人公は人ではなく「託す」という概念です。
ものとして物質が残る建築にとって託すことはより重要でしょう。私はそんな設計行為の中でどこか数学的な正解を見つけようとして迷走していました。そんな時にこの漫画に出会い、モヤモヤが少し晴れたような気がしました。どの分野においても不正解を恐れては進歩はないのでしょう。仮にそれが未来で不正解とされたなら、こちらには進むな、と間違った道を示した意味ある一歩なのではないでしょうか。

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