「SHOPHOUSE & TOWNHOUSE RENOVATION」

「SHOPHOUSE & TOWNHOUSE RENOVATION」

執筆者:田中 希(M1)

私は現在、タイのチェンマイに留学している。今回このテーマで執筆するにあたって、せっかくなのでタイの本を選ぶことにした。本屋では建築系の本がたくさん並んでいたが、その中でもひときわタイらしさを感じた本が、この本だった。

本のテーマはショップハウスのリノベーション。タイにおけるショップハウスのリノベーション事例が豊富な写真とともに載っている。本文は全てタイ語であるが、タイ語が読めなくても眺めるだけでも楽しい。もちろんリノベーション前の姿やコンセプト、プランニングなど知りたい情報も本文に載っている。私はタイ語が読めないので、翻訳ツールを使いながら読み進めていった。

ショップハウスは東南アジアで見られる店舗付き住宅のことである。長屋のように、隣り合う建物と壁を共有しているものも多い。築年数が古くなったもののうち一部はリノベーションされ、ホテルやオフィス、カフェなどに用途転用されて残されている。そのような事例は、チェンマイの街でも特に旧市街の中を歩いているとよく見られる。実際、この本に取り上げられている事例は、私が普段目にする建物とよく似ていた。そこで、この本を読めば普段立ち入ったり目にしたりすることのできない、建物の内部・内情がわかるのではないかと思い、読んでみることにした。

読んでいる中で、多くの事例に共通する点がいくつかあった。

まず一つ目は、床や壁を取り除き、垂直のつながりが生み出されていることである。元々はショップハウスの一階と二階は別々の用途が入っていたため、完全に切り離されていた。吹抜けを用いることにより、垂直方向の広がりが生まれ、窮屈な空間から開放感のある空間へと変化している。

二つ目は、光を取り込む工夫がされていることである。敷地の両端は他の建物に囲われている。そのため建物内部に光が届きにくい。そのためリノベーションの際にはどのように採光するかが重要な点となっているようである。解決策として天窓や利用して上から光を取り込んでいる。それを吹き抜けやグレーチングを用いて下層まで自然光を届けている。写真を見ると、天窓だけでも十分に明るい内部空間が実現していることが伺える。これはタイが赤道に近いため垂直に近い角度で太陽光が入射することが理由かもしれない。

三つ目は、ファサードが大幅に変化していることである。元の建物を感じさせないほどに新しい姿となっていることが印象的であった。特に道路側の面は、元々は縦長の開口が規則正しく並んでいたのに対して、開口が減らされるかメッシュによって覆われることで外部からの視線をカットするものに変わっている。

内部空間の作り方に対して、延床面積が大幅に減っているのではないかと心配になるほど大胆な吹抜けの設け方が興味深かった。ショップハウスという狭小空間に、大きなスケールが持ち込まれていることにより、外観からは想像できない、リノベーション前には実現し得なかった新たな空間体験を生んでいるのではないかと考えた。

一方で、ファサードの在り方については少し残念に感じた。ショップハウスの魅力として挙げられるであろう、前面道路に対して一階部分や開口を通して開け放たれていた公共性のようなものが、新たなファサードによって一部損なわれ、内外がはっきりと切り離されているという全く新しい関係性に変わっている。これは一年を通して大きく変化する気候に合わせるために、気密性を重視する傾向にあることも影響しているかもしれないと感じた。

最後に、ショップハウスの建築内外ともに、リノベーションによって非常に大きな変化がもたらされていることがこの本を通して実感できた。ファサードの印象から今まで気づくことのなかった「隠れショップハウス」が身の回りにあるかもしれないと、チェンマイを歩き回って確かめたくなった。

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